2010年8月2日。この日は、雇用保険の適用対象外の人を中心にした職業訓練の開講日やった。
既存の職業訓練は知識や技術を教えてもらう訓練が多いけど、実際の現場では教科書に載ってないようなことも多いやん?そこでこの訓練は、実習を通じて「学べる」体験がねらいやった。職業訓練としてはちょっと変わった講座やってん。
場所は、神戸の高級住宅街「御影(みかげ)」。白い洋館風ビルの2階が教室や。高い天井とガラス張りのホール、窓からは隣の公園の緑も見える開放感のあるええ感じの所やねん。1階は、入口入ったらすぐ庭。そこだけが都会の喧騒から離れた非日常的な空間やで。
訓練校の責任者はオレのボスの「キャッシー」はん。受講生の来校をドキドキしながら待ってた。そこへ色白でひょろっと背の高い若者が入って来よった。
「おっはようございま〜す!」
めっちゃ元気でさわやかな笑顔の挨拶やった。「感じ良い若者やん♪」とボスが心の中でつぶやいた直後、一瞬でそんな感情はぶっとんだ。
あじぃくん産みのメンバー
その色白の青年は、教壇から一番近い前の席に腰掛けてん。靴を履いたままの足をドカっと机の上に置いて両足を組みよった。その上、けだるそうな態度。その若者は、「モンハン(モンスターハンター)で、”神”と言われるぐらいの天才ゲーマーの上田や。
上田の斜め後ろには、小太りの中年男性が座ってた。このオッチャンは、元敏腕イベントプロデューサーの藤田。おっちゃんは、ちょっと前まで生死をさまよう病気で入院してて、病み上がりやった。上田の態度を見ながら不安な気持ちで席についた。
「この訓練校大丈夫やろか?オレやっていけるかなぁ…」
上田の隣には、この教室で紅一点の組合せ販売が得意な女子、安藤ちゃん。安藤ちゃんは、上田と同い年やねんな。上田の態度を横目に見て心の中で叫んどったわ。
「うわっ、机の上に土足って何やの?この人とは友達になられへんわ!」
最後に教室に入って来た日焼けしたおっちゃんは、負債30億で会社を倒産させた元会社経営者の川端はんや。上田のすぐ隣の席の椅子をひきながら、「20歳すぎてるのに机に足とは…今どき中坊でもそんな態度とらんやろ?幼いやっちゃなー」そう思いながらも笑顔で挨拶しとったわ。
そんなそれぞれの感情が入り交じる中で、ボスは上田に向って一喝してん。
「こらっ!机の上に土足とはどういうつもり?」
その瞬間、教室全体がピーンと張りつめた空気に覆われ、緊張感が走った。